eSIMには、機種に内蔵する本体一体型のSIM+遠隔から書き換え可能なSIMの2通りの意味がある
eSIMとは、新しいSIMの規格であり、主に2つの意味合いで使われる言葉です。一つ目は、機種に内蔵する本体一体型のSIMの意味する場合です。「Embedded SIM」の略称であり、ほかのSIMカードにくらべて小型のチップが搭載されているタイプの機種を指すときに使われます。「Embedded」が“埋め込み”を意味するところからも、SIMの特徴がイメージできるでしょう。
もう一つが、遠隔で情報が書き換えられるSIMを意味するケースです。「eUICC SIM」の略称としてeSIMと呼ばれるケースが該当します。カードタイプのSIMは、乗り換えのときにカード自体のさし替えを行うのが一般的です。対するeSIMは、カードのさし替えがなくても乗り換えができます。遠隔で情報を書き込める仕組みを「RSP」(Remote SIM Provisioning:リモートSIMプロビジョニング)といい、RSPを使ってオンライン上で手続きを行うのです。
もともとはスマホではなく、企業向けのいわゆるIoT機器向けにeSIMは考案されました。実際にトヨタ自動車は2016年からeSIMを活用して、通信回線の統合管理や監視が行えるグローバル通信プラットフォームの構築を進めています。スマホへの利用拡大も進んでおり、AppleのiPhoneは「iPhone XS」「iPhone XS Max」「iPhone XR」以降がeSIMに対応したモデルです。「Apple Watch」やタブレットの「iPad」シリーズでも対応機種がでているのにくわえて、ほかのメーカーの製品も登場しています。

総務省が推進する「eSIM」
日本ではまだ新しい言葉として認識されているかもしれませんが、eSIMがすでに一般的になっている国もあります。欧米を中心に55カ国以上で導入が進み、2024年にはスマホの出荷台数における33.8%がeSIM対応機種になるとの予想もあるほどです。そのため海外渡航者や来日観光客などの利便性を向上させるために、eSIMの利用促進を進めたいとの考えが政府にはあります。2030年には訪日客6,000万人を目指すと政府は目標を掲げました。その実現にはeSIMが必須であると考えたのです。
また利用者による通信会社の乗り換えの円滑化・活性化をeSIMの普及によって実現したいとの考えも政府にはあります。利用料金の引き下げなど、通信業界における寡占状態の解消や競争の活性化に向けた施策が行われていたのをご存知の方も多いでしょう。詳しくは後述しますが、eSIMには通信会社の乗り換えをしやすくするメリットが多く、業界の活性化に役立つと考えられています。
eSIMの普及に向けた考え方や留意事項をまとめた「eSIMサービスの促進に関するガイドライン」を2021年8月10日に総務省は策定・公開しました※1。ガイドラインのなかで、格安スマホや格安SIMを提供する「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)がeSIMのサービスを提供できるようにするために、携帯キャリアに対して機能開放を総務省は要請しています。要請をうけて、auも2021年8月26日からeSIMに対応を開始しました。同じくKDDI傘下であるUQモバイルも2021年9月2日から対応を始めたところです*5。
eSIMのメリットとデメリット
世界的に普及して日本政府が推奨しているeSIMにはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。代表的なものをまとめてみました。


SIMカードのさし替えが不要
eSIMは、機種に組み込む小さなチップ型のSIMを指す場合があります。最初から組み込まれているため、さし替えをする必要がありません。たとえば通信会社の乗り換えのとき、契約後に新しいSIMカードが発行されます。しかし郵送で送られてくる場合はすぐにさし替えができません。さきほどトヨタ自動車での活用について紹介しましたが、紛失や破損の恐れも少ないため、振動が多い車にも利用されているのです。

手続きがオンラインで完了する
eSIMはオンライン上で乗り換えなどの手続きができます。店舗で乗り換えを行ったときに長時間待たされた経験はないでしょうか。オンラインで手続きができれば、来店する手間や待ち時間などを無くすことができます。さらに店舗は営業時間がかぎられていますし、また予約制の店舗では、行きたいタイミングでの来店も難しいかもしれません。オンラインなら営業時間外でも手続きができるメリットもあります。

海外でも使いやすい
eSIMは海外ですでに広まっていると紹介しました。海外では、プリペイド式のSIMカードを購入してSIMフリースマホにさして利用するのが一般的といわれます。そのため現地に到着してすぐに使おうと、国内の空港やネット通販などで現地対応のSIMカードを先に買って準備する人もいます。しかし空港で取り扱っているカードに種類や在庫に限りがあったり、ネット通販では取り寄せに時間がかかったりと不備もありました。eSIMならば物理的なカードが不要のため、設定さえできれば、海外でのネット利用のハードルが下がると期待されています。

SIMカードも挿入できるスマホ機種であれば、1台で複数回線の使い分けができる(デュアルSIM)
2つのSIMを利用して2つの電話番号(2つの回線)を使用する仕組みを「デュアルSIM」といいます。eSIMに対応しつつ、カードタイプのSIMを別でさしてデュアルSIMを可能にした機種も普及しています。さきほど海外の例を紹介しましたが、普段はカードタイプのSIMを使っている方は、海外に行く際にeSIMも使えば新たに機種を購入したりせずに済みます。仕事とプライベートを分けたい方や、2台持ちを辞めたい方などにもおススメです。

機種変更の手続きに手間がかかる
つづいてeSIMのデメリットをチェックしましょう。まずは機種変更の手続きに手間がかかる点が指摘されています。逆をいえば、カードタイプのSIMは機種変更が簡単なのです。カードタイプは、SIMカードをさし替えれば終わる場合もあるからです。
しかしeSIMの場合は、オンラインでの手続きが発生します。しかもオンラインでしかできないケースもあり、自力で機種変更の手続きをしなければなりません。オンラインでの手続きが困難なユーザーには敷居が高いといえるでしょう。

対応している通信会社が少ない
auは2021年8月26日からeSIMへの対応を開始しますが、まだまだ対応している通信会社が少ないのもデメリットです。携帯キャリアがeSIMに対応し始めたばかりで、eSIMを書き換えるのに必要なRSPをMVNOには開放していません。そのため携帯キャリアから通信設備(インフラ)を借りているMVNOの多くはeSIMを提供したくてもできない状況です。携帯キャリアのサービス拡大にともなって、eSIMに対応したMVNOの増加も期待されています。

対応している機種が少ない
対応している機種もまだまだ限られます。対応している通信会社が少ないのと同じく、携帯キャリアの本格参入に合わせてラインナップが増えてくると予想されます。iPhoneについてはすでに紹介しましたが、ほかのメーカーも対応機種も登場させています。詳しくはメーカーや通信会社のホームページなどで確認しましょう。

eSIMを書き込むための「アクティベーションコード(QRコード®)」を表示するための端末が必要
eSIMを登録するときはアクティベーションコード(QRコード®)を読み取って行うのが一般的とされています。しかし読み込むためのQRコード®を表示させる機種がもう一台必要です。もちろんインターネットに接続可能でなければなりません。家族などに機種が借りられればいいですが、一台しか機種がない方は注意しましょう。

SIMを端末に書き込む際にインターネット回線などが別途必要
QRコード®を別の機種に表示させる以外に、紙に印字してカメラで読み込む方法もあります。しかしこの場合でも、eSIMを設定する新しい機種はWi-Fiなどでネットにつなげておかなければなりません。もちろんパソコンやプリンターなどのデバイスも整っていないと難しいでしょう。各通信会社のホームページなどをよく確認して検討しましょう。